拍手(使いまわし)小説 「恩返し」 『-----光?』  『------------光?』  あぁ…一番聞き覚えのある声だ。  私が「ライバル」と初めて思った、あいつの声。  いつもはかなり性質(たち)悪いが、それもこいつの優しいところなんだなって…いつも思う。  『何でも出来る』という特技があるから、親にも仕事を沢山頼まれてるし。     私にも何か手伝えることは無いのかな?  肝心な事をいつも言わないし、いつも守ってもらってる。……ちょっと悔しいけど。  それでも、私はお前の役に立ちたいんだ。  初めて…こんなに優しくなれる気持ちをおしえてくれたのはお前だからな。  やっぱり、『恩』は『恩』で返すのが…筋ってやつだから。  今までやってもらったことも、そのまま返したい。  ……………。ちょっと待て。   『やってもらった事』って…アレも入るのか?  に…二回やられたアレも…。もしや…。  い…いやっ!あれは嫌がらせだからいいとして。    …どうしようか?  「…二位さん♪」  ………ピシッ  「…おや?二位さんは風邪をひいて、俺に負けてもいいんでしょうかね?」  「誰が二位だコラぁーー!!」    って…。私、寝てたのか?  「やっと起きましたか。もう下校時間ですよ?一緒に帰りますか?」  それまで、ずっと待っててくれたのか---?  こいつの事だから、きっとそうなんだろうな。  「おう!」   うん。やっぱりいつかは恩返しがしたいな。  今度…まず、私が料理を作ってパーティでもやるかな?  とりあえずは、今日。  こいつと一緒に帰ってから。  じっくりと考えよう。 ---------------------------------------------------------------------  こいつの車の中に乗せてもらい、隣にこいつが座って。  いつの間にかこいつが隣にいることが当たり前になっていて。  …でも特別なんだ。  広いが、後部座席には二人きり。  普通の人から見たら、とてつもなく広く見えるだろう私と滝島の距離。  だけど…。  いまはとても近く感じるんだ。  窓から見える景色も、一人で見たらきっと何気ない景色。  でも、今は違って見える…。  どうしてだろう。  ライバルなのに。  「凄く…胸がどきどきする---。」    コレは、滝島が「ライバル」だからか?  それとも違う「何か」があるのか------?    「あぁ、考える事が沢山あるな。」  「何をですか?」     ハっと気づいた。  「すまん、声に出てたか?」  「はい、思いっきり」    ---そうか。って!!  「…どっからだ?」  「凄く胸がドキドキするそうですね?」    --------ゲッ!!!  みるみる、自分の顔が赤くなるのが解る。  「?…どうしましたか?」    うわ、やばい、やばいぞ!  幸い車内は暗くて、窓から入る街頭の光も少なくて。  まだ私の変化は滝島に伝わってないと思う。  でも、時間の問題だよな!  なんせ、こいつは魔力が使えるから!  何か話題を!話を変える話題を・・・!  あ、どうせなら!  「な…なぁ、滝島!!何かやってほしい事とかあるか?」  「は?」  「な!何か無いか!?」    すると、滝島は「そうですね」と考えた。    よし!話が折れたぞ!  しかも、一石二鳥になるチャンスだ!  …と思ったのもつかの間。    まさかの返答がくるとは  思いもしなかった。 その返答は。    「そうですね…。じゃあ、キスしてください」  私は一瞬…いや、暫く耳を疑った。   「………………は………………ぁ?」  滝島はあたかも「何も違和感なんてない」ような顔をしてこっちを見る。    広いような狭い空間で、暫くお互いで見詰め合う。     何だ…何を考えているんだこいつは。  からかってるだけなのか、どうなのか。  いや、そうだとしても…いや、そうだとしよう。      いやでも………………  「……………。」  沈黙が流れる、暗い車内。  暫くこの沈黙が続いたように思えた。  傍から見たら、滝島がマネキン相手に見詰め合ってた様に見えたであろう、この沈黙を  最初に破ったのは…  「もう一度言いましょうか?だから、キ……」  「もう言うな!!一度言えば解るっ!!」    滝島-------だった。  「な…なん…で、キ……キスなんだ…?」  「…さぁ?どうしてかは、自分で考えてくださいね?でないと、一生二位ですよ?」  「二位いうな! そ…それは滝島がされて嬉しい事なのか?」  「ええ…。光となら…だけですけどね」    『私となら』の意味がよく解らなかったが。  …滝島が喜ぶなら。    「本当に…後悔しないか?」  念を押す。  「はい、もちろんです。」    いつからかずっと顔が赤い私に。  この答えで決心がついた----------。  そのときは家に着くまでもう少しだった事を    気づかない私がいた。  「目…をつぶれ!」  こ…こうでいいんだよな?  「…はい」  にこにこして、目を瞑る滝島を目の前に。  私はじっと滝島の顔を見た。  長い睫、整った顔立ち…。  …やばい。どきどきしてきたぞ…?  こ、こんな状況で…やっていいのか?  そもそもキスって好きな奴とするもんじゃ…!?  あぁ…頭がぐるぐるしてきた…。  いいのか…?本当にいいのか…?  滝島は何故私と…。  うわ、で…でも早くしないといけないよな!?  あぁーー!!もう知らないぞ…!?    …ブチ。  …ブチ?  …なんだ、今の切れたような音--------    チュッ  …は?  「---------!!!!」  今------。  「遅いですよ、光」  「…お前っ今…!!!」    あっけなく、今。  滝島によって、私は唇を奪われた------。  「………」 ----------------------------------------------------------------------------------   今、起こったことが現実に感じられない今。    さっきまで笑顔でいた滝島の表情が-----------  固まっていた。  私はというと、自分でも解るくらい、顔が赤くなっている。  だって…あついんだ。    滝島の唇の感触が一瞬だったとしても--------私のに残っている。  やわらかくて温かい。滝島の香りがしたな?  心臓がどくどくと脈を打って。    ……。私からやる筈だったよな?     …………。少し納得がいかない。  が、    何故滝島は固まっているのだろう?   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−---  『やってしまった』    と言う後悔だけが胸をよぎる。    光が遅くて、早くあの感触を求めたくて。  俺から光のものを奪った---------------が。  そこまでは良かったものの。  光の後ろを見て 俺は固まった。    「彗様、光様。 光様のご自宅に到着しましたが…」  見られてしまっていたのですね。  その周りのギャラリーはなんなんでしょうか?  …商店街の中にリムジンがあったらそりゃギャラリーも集まりますね。     光も後ろを向いて固まった。   「………」  さて、どうしましょうか。    「…光の町に公認って形でいいでしょうか?」  「…は?」    次にこういう風に言ったら 光はこう答えるでしょう?  「もう皆さんの目の前でキスしちゃいましたしね♪」  「…ざけんなっっ!!帰る!!!」  予測通りで良かった、と一息ついて。   「また明日学校でw」  「…知らん!!」       周りでどよめきが起こる中  光は車を出て帰ろうとした。     が。  少し振り返って、俺に耳打ちした。  『今度は-----私からだぞ。やられてばかりも尺だし、滝島も喜ぶんだろ?なら…………な?』  俺はそう言い残して家に入った光の背中を見つめ。  使用人の方に強制的に扉を閉めてもらって----使用人には口止めをしておきましたけどね?     光がその後家でどれほど親に弁解しているのだろう、と考えると。  自然と俺はクスリと笑っていた----------。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−--- 翌日。  「お前のせいで本当に大変だったんだからな!! 母ちゃんや父ちゃん、しまいには兄ちゃんや商店街の人にまでお前と『できてる』せつがでてるんだからな!!!!もう二度とやるもんかーーーー!!アレは無しだぁーーー!!」  と物を投げつけられたのは、言うまでもない。